不自由さのノスタルジー
ヴォルフガング・ベッカー監督の『グッバイ、レーニン!』。
つい先日、飯田橋ギンレイでリバイバルしていたので、
ご覧になった方も多いはず。

1989年の東ドイツはベルリン。
テレビ修理店で働くアレックスは、 愛国主義者の母には
内緒で民主化を求める大規模デモに参加する。
ところが、アレックスが警官ともみあう現場を目撃した
母親は、ショックのあまり心臓発作で倒れ昏睡状態に。
そして彼女が8ヶ月間も眠っている間に
ベルリンの壁は崩壊、東西ドイツは統合されてしまった。
奇跡的に意識を取り戻す母親。
だが、医者に「これ以上のショックは命取り」と言われ、
アレックスはある大芝居を打つ決心をする。
つまり、世の中は何ひとつ変わっておらず、
母の愛する東ドイツは健在だと。

アレックスが母親を守ろうと 懸命にウソをつく
その奮闘振りが、 映画の見所のひとつになっている。
たとえば、ピクルスが食べたいと言う母親。
よし、と買い物に出かけていくけど、 スーパーにはもう
「粗悪」な東側商品なんか売っていない。
アレックスは東ドイツ製のピクルスの瓶を ゴミ収集所から探し出してきて、煮沸して、 そのなかにオランダ製の
ピクルスを詰め替えて母親に供する。


映画が描いた大事件から15年。
壁跡は観光名所になった。
ベルリンの街中にモノが溢れ、
金さえ払えば 何でも手に入る。
かつて西側(という区分も過去のものだが)の
テレビが映し出した東側名物、買い物客の「行列」も、
いまの街の盛況振りからは想像さえしにくい。
現実ではなく、映画のワンシーンだと 錯覚しそうだ。
むしろいまや東側で作られた「粗悪品」こそ、
ノスタルジックな貴重品になってしまった。
手に入らないと思えばいっそう懐かしくて、
欲しいと思ってしまうもの。
ピクルスに限らず、紙不足ゆえに横から見ると
ページが地層みたいに色違いになっている本とか、
細かい字は絶対書けないボールペンとか、
バリバリと音がしそうなトイレットペーパーとか。

それに、東で作られた製品の
全部が全部「粗悪」だったわけではない。
「粗悪」というより「ふつうじゃない」といった方が
当たっている場合もある。
まだ数年前のモスクワでなら、
「いったいぜんたいどこで買ったの
(もちろん旧共産圏に間違いない)」と
驚愕せざるを得ないような不思議なプリント
(たとえば写実的な昆虫模様とか)のブラウスを
着ているご婦人を見かけることもあった。
あんなブラウスは、利害を無視した社会主義国でしか
生産されないんじゃないだろうか。

人々が自由を享受できるのはすてきなこと。
だけど、みんなが「自由に」選んだはずの品物は
なぜかどれも似ていて、東も西も容赦なく 平均化
されていく最近の状況に寂しさも感じてしまう。
懐かしがってるだけでは生きてはいけない。
だけど、いやだからこそ、
この映画のかもし出すノスタルジーは深い。
         (小椋 彩  ロシア文学)
小さな音楽物語@〜ローラ・ニーロ

日毎に寒さが増し、
秋から冬へと季節が移ろい行く
この時期。感傷的な夜更けには、
なぜだか無性に あなたの唄声が
聴きたくなる――。

はじめて聴いたあなたの唄はカヴァー曲だった。
知人の編集テープに入っていたもの。
たしか、1曲目がキャロル・キングのいたThe Cityの「Snow Queen」。 続いて、ティム・ハーディンの
「Misty Roses」。 そして、あなたが唄う
「It's gonna take a miracle」 という曲順だった。

いずれも聴いた後に深い余韻が残るような、
スロー〜ミディアムテンポのしっとりとした
ナンバーだけれど、 とりわけあなたがファルセットで唄う
アカペラ調のバラードは、 本当に自然に
私の心の中にスッと入ってきた。
祈りにも似た、静謐なたたずまいの唄声。
まるで暗闇に差す一筋の光のように
なにか神々しいものを感じずにはいられなかった。

それからしばらくして、この曲の入ったアルバム
「Gonna Take A Miracle」を手に入れ、
あなたがいかに素晴らしいブルーアイドソウル・シンガーかを知る。 (シスター・ラベルとの掛け合いが最高!)

と同時に、「Wedding Bell Blues」「Stoned Soul Picnic」
といったフィフス・ディメンションのヒット曲は、
実はあなたの作品だとわかって、とても嬉しかった。
でも、この時点で私はまだ、
あなたを才能ある女性SSWーの一人という風にしか
思っていなかった。あなたが10代の頃に書いたという
ある曲を聴くまでは……。 (Sayuri Okazaki)
お洒落戦線異常あり@〜 EVITA(repetto)
やっと暖かい日が続くようになりました。

冬は嫌いなんです。
寒くて、日が沈むのは早くて、
テンションは尚の事上がりませ ん。
冬は私に負のパワーをもたらすのです。

冬服の組み合わせも暗いったらありゃしない。
Pコートは黒、それに合わせるパンツも黒や紺。
私なりに、コートやトップスの、素材や色味を
考えて下を合わせると、どうしても深く暗い色に
なりがちになってしまうんです。

  暗い気持ちが、“のらくろ”に?
“のらくろ”だから暗い気持ちに?
 
そんなラビリンスはどうでもいい。
とにかく、冬に負けてはならないのです。
こっちが操らねば、私は冬に負けてしまう!
ってことで、打開策として考えたのが、
「赤い靴」です。あいつがあれば
真冬だって、大寒だって、北極だって、
夏の気分になれること請け合いと。
太陽の赤! 情熱の赤! 激辛の赤!
赤をさし色に、冬といざ勝負、と
決め込んだのです。

思いたったら吉日。去年の晩夏、
冬と気持ちよく過ごせるように
私は必死でした。
22.5cmを展開しているブランドは少なく、
好みの形も見つからず……。

負けそうになること3ヶ月。
長い歳月をかけて、フランスから1度大阪へ渡り、
私の家にやってきた救世主――。
「EVITA」。



ツヤツヤ輝くエナメル、上品な深紅色。
もはや、その凛々しいお姿は
ナポレオン・ボナパルト。

偏平足の私には、
4.5pのヒールでもちょっときついのですが、
赤+エナメル+ヒールは色っぽい。
完全な「女靴」です。

今季はコーディネートに、「女性らしさ」
のような、性別も盛り込むことができたという、
意外なアプローチで得た産物でもありました。

次の冬を今からもう恐れている私ですが、
この赤い靴と共に、新アイテムを取り入れつつ、
冬のお洒落戦線を果敢に戦っていきたい!
そんな決意の辞であります。
(マドモワゼルN オシャレ愛好家)